対談実録

ベリタス・コンサルティング株式会社

坂尾晃司

株式会社マリモホールディングス

金口裕也

業界で一番、または絶対一番になると決めている企業を主なクライアントとするべリタス・コンサルティング株式会社(以下VC)が経営幹部候補、つまり各社の未来を担う精鋭を集めて行う「経営幹部育成プログラム」をスタートして15年目を迎える。その受講生でもあった、中四国地方ナンバーワンの不動産デベロッパー、マリモ社を核とする企業グループ、株式会社マリモホールディングス(以下マリモ)の国際人事部部長・金口裕也氏と、VC代表取締役・坂尾晃司氏。この二人が名刺を交わしてから10年。人事のプロ二人が見守る『経営幹部育成プログラム』と、日本企業が大いに関心を抱いている『外国人採用』 の現場と可能性について、文字通り腹を割って語ってもらった。





Koji Sakao | 坂尾晃司 |

ベリタス・コンサルティング(株)代表取締役。東京生まれ広島育ち。東京大学法学部卒業後、(株)リクルート入社。’00年にベリタス・コンサルティング(株)設立。大学ラグビー部でのポジションはフロントロー。座右の銘は「鶏口牛後」。

べリタス・コンサルティング(株)の
『経営幹部育成プログラム』 について

金口 広島銀行さんに坂尾さんを紹介された時、実は当時の上司と、会うだけあってすぐにお話は断ろうって事前に打合せしていたんですよ。それが実際にお会いしてお話を伺い始めると、これまでのコンサルの方々とは何かが違うという印象で。

坂尾 そうでしたか!(苦笑)断るつもりでお話を聞いてくださっていたとは、今初めて知りました(笑)。あれは御社がリーマンショックの後のドタバタを乗り越えた直後のタイミングでしたよね。

金口 当時私は人事課長でしたが、以来、ベリタスさんには人事制度改革、育成体系の構築、海外赴任社員の人事制度などでお世話になりました。そして、4年ほど前からは人事部長として【経営幹部育成プログラム】へ経営幹部や候補を送り込む人事の立場で、はじめの2年間は研修の様子を見学に行くオブザーバーでした。

坂尾 社長が毎回見学にいらっしゃる企業様もあれば、人事の方が初回と最終回だけ少し顔を出されるだけの企業様もある中で、金口さんは全ての回、後方の席で熱心に聞いてくださっていましたよね。

Yuya Kanakuchi | 金口裕也 |

(株)マリモホールディングス・国際人事部部長。広島県東広島市生まれ、2005年(株)マリモ入社。海外渡航歴65回以上、これまで面接を行った人数は5千人を越える。趣味は中華圏一人旅、得意料理は鯛のあらだき。座右の銘は孔子の「論語」から“義を見て為ざるは勇なきなり”。

金口 尖ったキャラクターで社内では距離を置かれるような参加者がいて、彼の様子が気になっていたので毎回後方から見守っていました。研修が進む内に彼が尖っていたのではなく、我々の方が丸かったというか、彼がもともと持っている思考が正しくて、我々がそれに気づいていなかったことが見えてきたのです。彼だけではなく、一期生はみるみる内に変化していきました。彼らの発想が短期間で変わったことに驚きました。

金口 研修で出された課題図書。これがまた見事に時代に当てはまっているんですよね。

坂尾 仕事柄、これまでに数千冊以上の本を読んできました。ビジネス書と呼ばれているものの中で、本当に読む価値のあるものは100冊に1冊あるかないか。

大抵は既に書かれてきたことのまとめや焼き直しで、新しいことって書かれていない。今も役に立つのは数十年前に書かれたものが多く、ドラッカーやマイケル・ポーターの著書がまさにそれで、著者の莫大な知恵や知識、洞察が詰まっている。それなのに本って安いなって思います。当社の研修では、選りすぐりの課題図書を選出して、受講生にはそれを読み込みながら研修に参加してもらっています。ケーススタディでは適切に分析ができるのに、自社事業については考えられないといったように、実践的な戦略的思考スキルを持っている人は少ないのです。ですから、まずは本を読んで思考の仕方やフレームワークに触れてから自分の事業について考えてもらうという流れを作っています。

金口 オブザーバーとして参加した後、私自身が社内の新規事業で、インドネシアなどの外国人人材を日本企業に紹介する事業を立ち上げることになり、この研修に受講生として参加することになりました。その際、それまでの自分だったら絶対手にしない種類の本だった課題図書に大変興味を持つことができました。もう、週末もずっと課題のことばかりを考えるようになりました。思考の訓練で、考える深度が深まった。事業計画書を持って合宿に参加した時のことをよく覚えています。スケールが小さい、それじゃあ市場を取られると、坂尾さんにきつくダメ出しされましたから。あれがなかったら、私の思考は小さなままでした。私に海外の人事制度について教えてくれたのは坂尾さんですし、これまで事業戦略をマネージャークラスが考えることなどありませんでしたから、ドラッカーの本は3回読むまで理解できませんでしたよ。

坂尾 金口さんは当時、走りながらも今後の事業について考えるタイミングでしたよね。

金口 これまで出会ったコンサルタントの方達と違うのは、やり方を教えてくれるというところでした。そしてまた、出来るまで教えてくれる。それまでは目の前の、今の事業をいかに真っ直ぐ進められるかを考えていましたが、どうやって差別化すれば良いのか、Blue Oceanはどこか、弱者の戦略に基づいて考えるなど、教えていただいてなかったら、きっと思いつきだけで動いてしまっていたでしょう。自分が身につけた新しい発想、思考が変わったことに気づきました。

坂尾 計画を立てて、視野を広げて、レベルを上げて。コロナという外部要因で立ち止まらざるを得なかった昨年のような特殊な状況下でも、PDCAを何度も組み立てトライする。そうできると正に打つ手は無限です。自分の事業を考えて、ワークシートに落とし込み、アクションプランを実行に移す。これで即、例えば1ヶ月後に結果を出せる人は極めて少ない。10人に1人もいないでしょう。だからこそ、定期的にアクションプランを立てる、立て直すことが重要です。研修で学ぶことで頭を整理して、PDCAの単純なサイクルにどれだけ真剣に取り組んでもらうかです。当たり前のことですが、計画をしてもやらなかったら意味がない。だからこそ、私は受講生のアクションプランを一番よく見るようにしています。アクションプランでその人の仕事ぶり、本気の人であるかどうかがわかるからです。

坂尾 この研修は一人当たりの研修費用としては安くありません。しかし、受講生が会社に戻って、動いて、会社にもたらす利益を考えてみてください。企業全体としては各社数億から数十億の利益が出ている。

金口 本当に、コストパフォーマンスの高い研修ですよ。

坂尾 これまで研修にちゃんと取り組む受講生は、事業計画にもちゃんと取り組む人ばかりでした。彼らはやっているフリをしない。なので、その後の事業成果もそれに比例し、成果が上がっておられます。金口さんもまさにそんな受講生のお一人でした。

金口 自分自身も含めて、これは『人を変える研修』だと思います。

この研修では、課題感をお持ちで、
なんとかしなくてはいけないと
考えている人たちに、武器を提供
していると思っています。

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坂尾 この研修では、課題感をお持ちで、なんとかしなくてはいけないと考えている人たちに、武器を提供していると思っています。そして、戦い方を教えて、チェックの仕方も教える。あとは、そもそも戦うってどういうこと?とか、そもそも敵って誰?ということを勉強してもらいます。また、私たちが提供するのはある意味、王道の武器ばかりです。それに真正面から向き合って、使いこなすまで頑張りぬく研修で、ファイター(ビジネスマン)として適任かどうかをみています。




(株)マリモホールディングスの経営幹部研修の様子

金口 加えて、研修を支えてくださるスタッフの方々や事務局もとても優秀で心強く感じました。プログラム中はもちろん、提出課題に対しても厳しい視点での指摘があったり、課題配布、提出のリマインドなど細かい点で研修実施をサポートして下さって、すべてをお任せ出来、とても安心して取り組めました。

坂尾 ありがとうございます。そうおっしゃって頂けるとスタッフも喜びます。金口さん以外の人事の皆さまも、会場手配やスケジューリング、毎回の課題図書の手配など、細かい配慮を頂いて本当に助かりました。ぜひ引き続きよろしくお願いいたします。





(株)マリモホールディングスの
『外国人採用』 について

坂尾 そもそも、御社が外国人採用の事業を始めたきっかけは?

金口 もともと先代の創業者が中国への事業進出に強い思い入れがありまして、15年前に私自身が入社するタイミングで将来の現地幹部候補生として同期に中国人の社員が3名いました。その中の1名は今も一緒に仕事をしていますし、彼がいなかったら1,000億の売上を誇る中国事業がありませんでした。

中国進出が形になると、同じようにインドネシアに進出できないかという話になりました。単純に、日本に留学しているインドネシア人留学生を採用して現地との掛橋になってもらうつもりでした。しかし、当時は中国人留学生が日本に8万人ほどいるのに対し、インドネシア人留学生は1,000人弱しかいなかったのです。そこで北は室蘭から、南は鹿児島まで、インドネシア人留学生がいる約30校へ会いに行ったのですが、ものの見事に採用は失敗に終わりました。ならば最終手段ということで、インドネシア現地へ学生に会いに行こうという話になりました。それが5年ほど前です。ジャカルタと、バンドン、二手に分かれて学生に会いました。人がたくさん来ると思っていたジャカルタでの説明会にはたったの7名、期待していなかったバンドンの方へはなんと80名も参加者があり驚きました。後から知ったのですが、バンドンは「日本語教育発祥の街」。そこでは日本に留学している学生よりも、上手な日本語を話す学生が多く、一度も日本を訪れたことがないのになんて日本語が上手いのかと、驚かせてくれる出会いがたくさんありました。そのはじめてのインドネシア現地面接で採用した社員は、外国人採用の際に英語、インドネシア語での通訳を担当してくれているので、私と行動を共にすることが多いです。中国地方で開催された人事の会合にも彼は同行していました。その彼の姿を見た他社の人事担当者から、外国人スタッフをどうやって採用したのか訊ねられました。その後も、彼をどうやって採用したか、立て続けに訊ねられるようになり、これだけ聞かれるということはニーズがあるのだと確信しました。インドネシアの人口は2億8千万人でGDPも伸びています。今後より一層、彼のような人材が必ず必要になると意識しました。本格的に外国人採用を事業化したのは2019年です。

坂尾 中国、インドネシア。現地へのビジネス進出の際に外国人採用を自社で始めたことがきっかけだったのですね。

金口 その通りです。特に、自分自身様々な人種に接してきた中でも、インドネシア人の方は肌が合うと言いますか、社内でもみんなから好かれているんですよね。インドネシアの中でもジャワ島には日本人と共通した『本音と建前』の文化があるそうですし(笑)。

坂尾 それはすごい。ジャワ島に『本音と建前』文化があるなんて。御社では他の国出身の方もいらっしゃいますよね。イギリス人、ロシア人の方など。

様々な人種に接してきた中でも、
インドネシア人の方は肌が合うと
言いますか、社内でもみんなから
好かれているんですよね。

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金口 そうですね、特にロシア人スタッフで超優秀なIT人材が在籍中です。彼の素晴らしいプログラミングレベルは社内でも評判です。採用に関わったロシア人スタッフの評判も続々と耳に入ってきます。別のロシア人スタッフはホテル、レストランで高評価されているのですが、何を評価されているかというと、その『真面目さ』、『日本の文化をリスペクトしたホスピタリティ』だそうです。

坂尾 日本ではあまり知られていないように思いますが、ロシア人の方は親日家の方が多くいらっしゃいますよね。私は大学で第二ヶ国語の専攻がロシア語だったことから、卒業後、外交官やロシアのベンチャーファンドなど、ロシアに関わる仕事をしている友人が多くて。彼らからビジネスの機会を教えてもらい、現地に赴くようになりました。モスクワの本屋には吉本ばななさんや村上春樹さんのロシア語訳の書籍のコーナーがあるんですよ。以前はCDショップには日本製の洋楽CDがたくさん並んでいました。車や電化製品だけではなく、日本製のものに対する信頼が厚い。日本語を流暢に話せる優秀な人にもたくさん出会いました。しかし、日本企業が採用に来ないものですから、日本語を話せる人材が国内にとどまっている。そこで2017年から、弊社がロシア人材ビジネスを本格的に始めることになったのです。

金口 コロナというこの環境ではなかったら、今頃、ロシアでご一緒していましたよね。ロシアの方はITの技術面でも本当に優秀ですから、今後の需要は増えるばかりであると感じています。

坂尾 海外で日本語を勉強していた人って、日本文化が好きで、日本のいいところを真似してくれる、概して真面目な方達という印象があります。よく聞くのは、日本の漫画を読んで日本語を勉強するそうで。海外に輸出されている漫画は、露骨な暴力や性描写などではなく、ストーリーや主人公が真っ当で魅力的なものが多く、日本人が大切にしてきた文化が根底にあります。漫画を通して日本語を学ぶと、まともでいい人、真面目で、優しくて誠実になるのかもしれない。精神的にも日本人に近くなるのかもしれません。これは独自の仮説ですが、言語として日本語がソフトだから日本語を学ぶと人は優しくなる。これが例えば英語だと、急に攻撃的になる人を私は何人も知っています(笑)。 英語を話すときに別人格になる。強めの物言いで、主張して食ってかかるみたいな。





金口 あ… それ、私言われたことがあります(笑)。 私が中国語を話すと怖いって…

坂尾 (笑)。この仮説はますます信憑性が増しましたよ。さて、日本語人材に対して、IT人材についてはどうですか。日本ではずっとIT人材が不足していて、需給ギャップがなんと数十万人といわれています。加えて、設計や施工管理を担う建築人材も足りない現状が続いていますよね。

金口 日本国内の求人倍率について話しますと、コロナ前にIT人材は9倍、建築人材は10倍でした。コロナ後でも、IT人材は4.8倍、建築人材は9倍。特に建築人材はコロナ前後でもほぼ変わらない現状です。

カリキュラムに理論だけではなく
実習が多くあるため、卒業生は即戦力、
ポートフォリオの質が違う。

坂尾 需給バランスが完全に崩れていますよね。日本人では補いきれないギャップがあるからこそ、海外からの人材採用需要も高まるわけですが、海外から新卒を採用した際のメリットは語学以外にもありますか。














金口 新卒というと、いわゆる実践、プロジェクト経験がないと思われがちですが、海外人材の場合、違うのです。4年制、5年制の大学では学生の内にプロジェクトを経験するカリキュラムになっているのです。5年制の場合、1年間は企業での実習、実践です。彼らは大学で実践を学んで卒業しているのです。建築人材でいうと、彼らのポートフォリオ(作品集)を見たゼネコンさんが驚くレベル。カリキュラムに理論だけではなく実習が多くあるため、卒業生は即戦力、ポートフォリオの質が違う。当社のマンションを建設頂いているゼネコンさんにはベトナムのハノイ工科大建築部を出たベトナム人の社員がいます。入社から4年で現場副代理人として施工管理を担当しているのですが、かなり優秀らしく、マンション建設の現場を既に任せられるレベルまで来ているそうです。

坂尾 大学のカリキュラムは日本と海外で大きく異なりますよね。日本の場合、偏差値の高い大学ほど、大学は教養を学ぶ場だと考える頭の固い教授が多くて実学を教えない。例えば、東大にはビジネススクールがないんですよ。世の中に出て具体的に貢献しようと思ったら、実践的なスキルが必要。理論経済学は解っていても、帳簿の付け方がわからないのでは困りますよね。即戦力となる海外人材は魅力的です。

金口 異文化を取り入れて、積極的にダイバーシティ化に取り組んでいるところの業績が伸びているのは、海外人材採用で差がついているケースも多いはずです。

坂尾 金口さんの事業、ご自身が掲げていらっしゃるビジョンには意義がありますよね。ただ単に日本で人が足りないから外国から人を連れて来てやってもらうという発想ではなくて。例えば、インドネシアの方達からすると、日本での仕事は新しいチャンスで、日本でノウハウを身につければ、いずれまた国に戻り、母国の産業発展に貢献できる。日本企業は彼らと仕事をすることでダイバーシティを実感、実現するチャンスになる。外国人スタッフが優秀であることを知れば、日本企業の考え方が変わりますよ。結果、日本企業の生産性、競争力が高まり、長い目で見ると日本の産業への貢献にもなっています。これは、当社の『ホワイトカラーの生産性を高める』というテーマとも通じていて、大変共感しています。また、マリモには真面目で、誠実で、会社のことが好きな社員さんが非常に多いですよね。社長自身のパーソナリティから来る風土でしょうか。総じてマリモピープルと呼ばせていただきたいほど、皆さんのことを敬愛しています。

金口 勢いと尖っていただけの自分に、人事の実力をつけてくださったのは坂尾さんです。魚を与えるのではなく、魚の捕り方を教えてくれる。顔はにこやかなんですけれど、やることが厳しい。これまでになかったような、会社の根幹となる人事制度の構築などでも、大変お世話になりました。VC、そして坂尾さんがなぜ他のコンサルとは違うのか。それは坂尾さん自身が事業家であるということです。雇われ社長とも違う信念、迫力はそこから溢れてくるのだと感じています。

坂尾 マリモグループは、元々の本業である不動産デベロッパー事業はもちろん、これからますます新規事業、特に社会的に意義のあるソーシャルビジネスに取り組んでいかれますよね。ぜひ金口さんの事業を大きく飛躍させて社内の新事業構築の模範となって頂きたいと思います。本日はありがとうございました。

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